


これまで述べましたように市場経済社会は、「事前規制型社会」から「事後制裁・救済型社会」へ大きく転換してきました。すべての経済活動に対して、事前にあらゆるルールが明示されています。経営者はこれらのルールを自ら学び、十分に理解して、経営を進めていかなくてはなりません。また、原則自由な経営環境のもとでは、今まで以上に効率的な経営管理体制を確保し、その経営の透明性と信頼性を高める社会的責任を自覚する必要があります。
今日、このような変化に対応するために必要なマネジメントとして、内部統制やリスクマネジメントの必要性が叫ばれています。企業経営において、これらの体制の整備・運用が求められる理由として、経済産業省(「リスク新時代の内部統制~リスクマネジメントと一体となって機能する内部統制の指針~」リスク管理・内部統制に関する研究会 平成15年6月)は、その社会的背景として、つぎのようなことを述べています。
(1) 規制緩和の進展
規制緩和が進み、自己責任に基づく事後規制へと社会的枠組みが変わっていく中で、企業がそれぞれの判断でリスクを取り、収益を上げていくことが必要となってきている。
(2) リスクの多様化
急速な技術進歩、事業の国際化、事業展開のスピードアップ等に加えて、環境問題等の新たな社会的規制も、企業を取り巻くリスクをより多様なものとしてきている。
(3) 経営管理のあり方の変化
雇用の流動化が進んでいるほか、社内起業制等の採用や企業再編等の進展により、従業員や当事者間の暗黙の了解や信頼関係のみに依存した経営管理のあり方に限界が生じてきている。企業における内部の関係者間の調整を中心とするシステムの見直しと新しい仕組みが必要である。
(4) 説明責任の増大
市場経済が進展していく中で、株主、従業員、顧客、取引先等の多様なステークホ
ルダーへの責務を適切に果たすことがより重要なものとなっており、このことに対
して、国内外の市場が迅速に評価を行うようになってきている。
このような状況の変化の中で、リスクマネジメントや内部統制の構築と運用に失敗し、リスク評価や対応を怠った場合には、市場の信頼を失い、企業自らも厳しいペナルティを受けることになります。従って、市場経済における責務を適切に果たし、企業が自らの行動を最適化し、競争力を高めていくためには、リスクマネジメントや内部統制について改めて見直しを行い、より積極的にこれらに取り組むことが必要となっています。
人類にとって、最大の課題の一つは気候変動の問題であり、地球温暖化の解決への問題です。この問題はあまりにも重要で大きいため、何をしてよいのか分からない経営者が多いと思います。これらの具体的な方策については順次説明していきますが、今回はもう少し狭い、身近なわが国の経済変化について解説いたします。
日本は、これまでの大幅な構造改革の進展により、経済のみならずあらゆる面において、大きな変化がみられます。経済システムは、規制緩和や規制撤廃による自由な市場経済への移行が進展し、不合理な規制が除かれ市場の健全な自由競争が促進されてきました。今後、企業収益、民間投資、輸出などは景気の波や新興国との関係はあるものの長期的には進展していくものと思われます。しかし、この市場主義経済は、一定の市場ルールが必要とされます。
ただ、このルールが今までにない新しい形で行われるということです。それは、「事前規制型社会」から「事後制裁・救済型社会へ」の転換といえます。ここで多くの経営者が勘違いをして、市場主義経済はなんでも自由であり、すべて市場の論理で決まるものであると思いがちですが、そうではなく、透明・公正な市場ルールに基づく自己責任原則のもとでの自由な競争・事業活動という前提があります。
例えば、新しい会社法においては、原則自由が会社の運営についての基本理念になっており、幅広い組織や仕組みが保証されています。これまで、会社法は私法として会社関係者の権利義務を調整するルールでしたが、今では会社法は、国の経済をサポートし、成長するためのインフラのひとつであるという認識に変わってきました。
法律の良し悪しが、経済・経営に影響を与えるということです。あらゆる経済活動に対して、ルールが事前に明示され、違反に対する制裁はどの程度のものかということも明らかにされていることが、自由な経済活動の前提条件になっています。このような社会を「法化社会」と呼んでいます。「コンプライアンス」という言葉も浸透して来ました。最近の社会的事件を見ますと、このような変化がよく理解できると思います。経済的な豊かさの源泉は、自然資源の有無ではなく、その国がいかなる人的な資源を育て上げ、いかなる制度を整えたかによります(「戦後世界経済史」猪木武徳2009年)。経営者はこのような変革を十分に認識する必要があります。
さらに、経済成長の源泉を企業内部の変化から見ますと、最近は、終身雇用モデルの崩壊や雇用の流動化が進み、企業再編等の進展により従業員や関係者間の信頼関係が希薄になっており、信頼関係に基づいた経営管理のあり方に限界が生じてきています。さらに、市場経済の進展により、株主、従業員、顧客、取引先などの多様なステークホルダーの要望を理解し、ステークホルダーに対する責任を適切に果たすことが経営にとってより重要なものとなっており、このことに対して、国内外の市場が敏感に反応するようになってきています。社会が会社に望むことが売上や利益などの経済的なことだけでなく、経済以外の環境や社会に対して貢献してほしいとする考え方が強くなってきています。このような時代ついてに、経済同友会は、「市場は、価格形成機能を媒介として資源配分を効率的に進めるメカニズムを備えているが、社会の変化に伴い市場参加者が「経済性」に加えて「社会性」「人間性」を重視する価値観を体現するようになれば、それを反映して市場の機能もより磨きのかかったものとなるダイナミズムを内包しており、市場は社会の変化と表裏一体となって進化するものである。」と説明しています(経済同友会『21世紀宣言』(2000年12月)より)。
人々の視野は狭く、大多数の人々が、家族や友人などの身近なことや経済的なこと、明日や来週のことなどごく近い将来のことにしか関心を寄せていません。ほんとうに重要な問題については、関心を持つ人は少ない状態です。現在、人類にとって、最大の問題の一つは気候変動の問題であり、そのなかでも地球温暖化の問題です。これまで地球温暖化の原因はいろいろな説があり分からないことが多かったのですが、今日、地球温暖化は石炭や石油などの化石燃料を燃やすことによって排出される二酸化炭素(CO2)などの増加に原因があり、それは我われの活動に基因していることがほぼ確実であることが分かりました。
地球大気中に含まれるCO2などのガスは、地球表面から放射される赤外線エネルギーを再度地球へ向けて放射しており、このため太陽から直接受け取るエネルギーよりもさらに多くのエネルギーを地球表面は受け取ることになり、これを「温室効果」といいます。そして、この効果をもたらす二酸化炭素などのガスを「温室効果ガス」といいます。この温室効果ガスの増加が地球温暖化をもたらすと考えられ、世界各国の研究機関であらゆる角度から科学的な研究が行われています。特に、その中心的な役割を担っているのが「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」という国際組織であり、地球温暖化に関する多くの報告書を発行しています。
温室効果ガスの大気中の濃度については、現在は測定できるようになっていますが、昔は測定していませんでした。では、どのようにして昔と現在を比較してCO2が増えているといえるのでしょうか。それは、南極の氷から分かるのです。南極には地球上にある様々な物質が氷床に堆積して凍結保存され、大気そのものも氷の仲に気泡として取り込まれます。従って、南極の氷床を円柱状のコアとして削り出し、コア内の大気を解析して、過去32万年間からの気温とCO2がきわめて類似した変動をしていたことが明らかになりました。
このような分析結果について、IPCCは次のような大変興味深い表を公開しています。この表から、古代から1900年位まではCO2の濃度は安定していましたが、1900年代後半からCO2の濃度が急激に上昇していることが読み取れます。このように世界の温室効果ガスの排出量は増加し続けており、1970年から2004年の間に70%増加し、過去100年間(1906年~2005年)に世界平均気温は0.74℃上昇しました。このほとんどは、人為起源のCO2の増加によってもたらされた可能性が高いと考えられます。特に、アジアにおいては、CO2の増加は今後 急速な都市化、工業化、経済発展に係わる天然資源の枯渇の問題と気候変動の問題が複合されて経済に大きな影響を与えると予測されます。このような問題に関して、多くの人々が関心を持つようにならなければいけません。

(資料) Climate Change 2007:Synthesis Report p.38,
An Assessment of the Intergovernmental Panel on Climate Change (IPCC)
東洋大学 経営学部教授・公認会計士・税理士 中村義人