中村義人の一言ゼミナール

社会人のための監査論 ―会計監査はどのように役立つか―
 第102回 監査の道

 岡田誠一会計士の著した「実用商事會計監査法」(大正10年11月)においては、一般的な「監査」とは、会社の会計記録が真実の物であるかどうかを確かめることであり、会社の活動のアラ探しをするものではないと述べています。監査には重要な目的があり、それはまず、会計記録が正確に真実を表しているかどうかを明らかにすることであり、次に会社の決算書が正しいものかを明らかにすることであるといいます。
 例えば、監査役割が期末に決算書を監査することがあげられます。そして、最後に会社の不正行為の発見を目的とするものであるとします。これは、当時の商法において、少数株主権の発動として資本金の十分の一以上所有する株主が検査役を裁判所に請求できる場合の検査がそうであり、事例として最近の満鉄疑獄事件や東京瓦斯会社の瓦斯料金に関する贈賄事件を挙げています。

 東京瓦斯の贈賄事件とは、大正9年東京瓦斯会社のガス料金値上げをめぐり、会社側が市会議員に金銭を渡した事件のことです。当時、瓦斯会社が高い配当を続けるためには瓦斯料金の値上をする必要がありましたが、その値上げには市議会の承認を得る必要があります。そこで瓦斯会社に有利な議案に賛成することを条件として、市会議員らに金銭を提供したわけです。さらに、明治神宮の参宮道工事を始め市全般の道路・下水工事などにおける多くの贈収賄事件が発覚しました。この一連の東京市疑獄事件の被告は、市会議員ら68名にも及び有罪の判決を受けました。

 また、満鉄疑獄事件とは、大正10年保守の政友会の森恪(もり かく、後に政友会幹事長)の経営する満州の炭鉱(塔連炭坑)などを不当な高値で買収して国会で追及され、満鉄副総裁中西清一が逮捕された事件です。満鉄は、正式名称を南満洲鉄道株式会社(南滿洲鐵道株式會社、The South Manchuria Railway Co,.Ltd.)といい、明治39年に設立され昭和20年まで続きました。明治38年の日露戦争後ポーツマス条約によりロシアから中国東北部の租借権とロシアが経営していた東清鉄道の中の長春~旅順・大連の区間の鉄道経営とそれに付随する権利を獲得して、満鉄の具体的計画に入りました。満鉄は鉄道業務と並行してその付属地の開発を行うことが目的とされていました。満鉄の初代総裁は台湾総督府民政長官をしていた後藤新平がなりました。後藤は満鉄経営の基本政策として「満州経営策梗概」をまとめ、その冒頭で「戦後満州経営唯一の要訣は、陽に鉄道経営の仮面を装い、影に百般の施設を実行するにあり。」とあるように鉄道経営を中心として、あらゆる事業を開発して中国東北部の経済発展を促すことでした。その結果、満鉄の関係会社は64社に及び(大阪朝日新聞 昭和9年3月23日による)、化学工業、福昌華工、国際運輸、日満電力、大連汽船、南満瓦斯などがあげられています。

 筆者は昨夏、大連市を訪れ、旧満鉄本社を保存している「満鉄旧跡陳列館」(満鐡舊址陳列館)を見学しました。当時のままに内部が保存されており、館員の丁寧な説明がありました。植民地統治の担い手である旧満鉄本社をなぜ残しているのかと思いましたが、直ぐその疑問が解けました。入口にある大きな衝立の前言の最後の文章に、「満鉄旧跡陳列館の設立、その目的は、我々が歴史を鑑とし未来に臨み、共に平和・友好の新たな一章を切り拓くことにある。」とありました。




 

大連市旧満鉄本社ビル

  満鉄旧跡陳列館内「前言」

  • 中村 義人
    放送大学客員教授
    元東洋大学教授
    公認会計士 税理士
    税理士法人創新會計 役員

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