中村義人の一言ゼミナール

社会人のための監査論 ―会計監査はどのように役立つか―
 第84回 監査の道

明治2年の版籍奉還により、諸藩主の土地と人民に対する支配権が朝廷に返還されました。
そして旧武士階級は「士族」と名前を変え、全国の士族は政府が掌握することとなり、士族(全国150万人)に対する俸禄を明治政府が支給するようになりました。この俸禄は明治政府の歳出の30パーセント以上を占めるようになり、いつまでもこの俸禄を支出していたのでは政府の財政が破綻してしまうので、その解決策として明治9年に士族に対して公債を交付して、彼らに対する家禄の支給を廃止することにしました(秩禄処分)。
この公債は、俸禄の数年分を額面とした期限付きのもので、公債を売買可能とすることで士族の事業資金に充てるようにしました。これらの士族は職のないものが多く、何らかの職業に就いて生活費を稼ぐことが必要とされていたからです。いわゆる武士のリストラ政策です。

しかし、この政策に対して士族は大きな不満を持っており、この不満を解消する手段として、海外に目をむけさせるために征韓論がおきました。征韓軍が組織されれば、職のない士族の活躍の場ができ、戦功を立て収入を得ることもできる、と期待したわけです。
しかし、明治6年征韓論を唱えた西郷隆盛、江藤新平、板垣退助は、岩倉具視らの国際関係を重視した慎重論に敗れ、下野することになります。しかし、翌明治7年大久保利通らは、国内の不満を海外にふり向けるねらいから台湾征討に踏み切ります(第73回監査の道)。このような政策は現在の米ソなどの大国に相変わらず見られます。しかし、不平士族の不満は無くならず、明治7年に元司法卿江籐新平が故郷の佐賀県で擁立されて起きた佐賀の乱(第81回監査の道)、明治9年熊本県での神風連の乱、福岡県の秋月の乱、山口県の萩の乱などが続き明治政府を悩ませました。なお、この秩禄処分はほぼ10年で完了しました。

明治政府は歳出だけでなく歳入の方も手をつけ、租税制度の改革を始めました。
江戸時代までの租税は米による物納制度(年貢)であり、生産者(農民)が納税義務者で、その仕組みも各藩に任せられており、全国で統一したものではありませんでした。各藩の財政規模をはかる物差しとして「石高」が使われていましたが、この物納された米(蔵米)を有利な条件で換金するために、江戸や大坂に蔵屋敷を設けて商人に売却して現金に変えていました。また、蔵米を担保として商人からの借入も増えていき武士の生活は困窮していきました。現在の台東区にある「蔵前」の地名は隅田川沿いに幕府の米蔵が多くこの地にあったことに由来します。

このような状況を打開するために明治政府は租税制度を根本的に改め、米による物納から土地の価値に見合った金銭を所有者に納めさせる全国統一の課税制度に改めました。この地租改正は、明治6年の地租改正法の公布により着手され、同8年の地租改正事務局の設置以降本格的に進められ、同14年にほぼ完了しました。これにより土地の所有権が認められ、地租は原則として金納となりました。
当初、府県庁は、地租改正事務局があらかじめ見当をつけた平均反収を絶対的な査定条件として、強制的に農民に課したことから、日本各地で大規模な一揆が頻発しました。茨城県で発生した真壁騒動、三重県松阪市で発生した伊勢暴動などが有名です。伊勢暴動は、最大規模の一揆で明治9年12月三重県を流れる櫛田川の河原に集また千人余りの農民が竹槍をもって暴れ、各地で役所、銀行、学校などの建物を壊したり火をつけて暴れ、警官や軍隊の派遣により鎮静しました。
政府は、これらの一揆を受けて明治10年に、地租を100分の3から100分の2.5に減額することを決定しました。

この地租改正の交付にあたり、その国民への影響が大きいことから、課税の公平に努めるよう明治天皇から下記のような勅語が発せられました。

「朕惟うに租税は国の大事人民休戚(きゅうせき:喜びと悲しみ)の係る所なり、従前その法一ならず寛苛(かんか:寛大と厳格)軽重率(おおむ)ねその平を得ず。よって、これを改正せんと欲し、乃ち所司(担当官)の郡議を採り地方官の衆論を盡し、更に内閣諸臣と弁論裁定し、これを公平画一に帰せしめ地租改正法に頒布す。庶幾く(こいねがわく)は賦(ふ:地租)に厚薄の弊なく民に労逸(ろういつ:苦労と安楽)の偏なからしめん。主者(しゅしゃ:責任者)奉行(ほうこう)せよ。」
(上諭 明治6年7月28日)

(参考資料)
「秩禄処分」 落合裕樹 中公新書  1999年
「概説日本経済史・近現代」 三和良一 東京大学出版協会  1993年
「税務署の創設と税務行政の100年」 税務大学校研究部 大蔵財務協会 1996年



 

「秩禄公債証書見本」
国立公文書館デジタルアーカイブより
  「地租改正方法伺」明治6年7月
国立公文書館デジタルアーカイブより

  • 中村 義人
    放送大学客員教授
    元東洋大学教授
    公認会計士 税理士
    税理士法人創新會計 役員

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